商事信託と家族信託の違いを比較|メリットやデメリット、商事信託の判断基準とは
2023/02/16
自らの財産の管理や運用を、契約により他人に任せることができます。これは「信託」と呼ばれる行為ですが、細かく見ると信託にも「家族信託」など、いくつかの種類があります。これに対し「商事信託」と呼ばれる信託もあり「そもそも信託についてよくわかっていない」という方は混乱することもあるでしょう。
ここでは家族信託と商事信託の概要を紹介し、それぞれの違いを比較していきますので、情報整理に役立てていただければと思います。
信託には2種類がある
そもそも「信託」とは、ある人が自らの所有する財産を他人に託して、特定の目的に沿って当該財産を管理・運用をしてもらうことを意味します。
商事信託や家族信託など、信託の契約においては、財産を託す人を「委託者」と呼びます。一方信託を受けた人は「受託者」と呼ばれます。
また、信託契約では受託者の行為により恩恵を受ける人物の設定も行います。その人物は「受益者」と呼ばれます。
例えばある人が賃貸マンションの管理をするのに疲れ、この管理を他人に任せたいと考えたとしましょう。管理を任せたとしても、賃貸マンションから生じる賃料まであげたいわけではありません。ニーズとしては、面倒な管理を任せて、賃料だけが自分の懐に入ってくるようにしたいのです。このときの信託契約では、委託者が受益者も兼ねることになります。
こう聞くと、受託者に一方的な負担がかかっているようにも思えます。
しかしながらその受託者が委託者の家族であれば無償で引き受けることもあるでしょうし、同居している場合は実質受託者にもその恩恵が返ってくることになります。そのため家族や親族内での信託は少し特殊であり、特に「家族信託」と呼ぶこともあります。
なお、家族信託も広くは「民事信託」に分類される信託の形です。
これに対して「商事信託」という信託もあります。
業者が受託者となり、報酬と引き換えに信託を引き受けるのが商事信託といえます。受託者が家族でないということだけでなく、根拠法が異なることに起因して信託のルールにも違いがあります。
家族信託(民事信託)とは
家族信託についてもう少し詳しく説明します。
家族信託を含む民事信託は信託の基本形であり、受託者となる主体や信託を引き受ける目的などに特別の規制はありません。
「家族信託」と呼称することもありますが、これは民事信託を家族間で行う場合のことを指しているだけで、適用されるルールは信託法に基づく民事信託に共通します。
ただ、家族間で利用する場合は“相続対策”や、障害を持つ子どもの”親なき後問題への対策”、自らが亡くなった後の配偶者等の“生活支援”を目的にすることが多いなどの特色を持ちます。
商事信託とは
商事信託は、事業者たる受託者が営利目的で引き受ける信託契約のことです。
ただ、営利目的を事業者がする信託がすべて商事信託になるわけではありません。許可を受けた信託銀行など、特定の要件を満たした事業者でなくてはなりません。また、“報酬を得て、不特定多数の者から反復継続的に引き受けること”も必要です。
そのため家族に依頼をしたとき、報酬が生まれたからといって商事信託になるわけではありません。
家族信託と商事信託の違いを比較
家族信託と商事信託の違いを以下に整理していきます。
契約の当事者
まず違うのは「契約の当事者」です。
上述の通り、家族信託では当時者が家族(あるいは親族)です。そのため資産運用の流れを家族内で完結させられます。
これに対し商事信託では、受託者が金融機関などの特定の事業者に限られます。
この場合、外部の者に資産を預けるという点で不安を抱く方もいるかもしれませんが、より専門的なノウハウを持った受託者に任せられるという意味では安心感が得られます。
受託者の目的と費用の有無
商事信託では、受託者は、営利目的で契約を締結します。
そのため信託にあたって費用も発生します。
契約締結時の初期費用、月々の管理費用、運用報酬などが発生します。信託財産の大きさや依頼内容にもよりますが、初期費用に数十万円がかかったり、月々数万円ほどがかかったりもします。ただしその分家族に任せるときより高度な資産運用が期待できます。
一方で家族信託の場合、受託者の目的は問われません。営利目的である必要もありません。
そのため無報酬で受託者が引き受けるケースもあります。ただし報酬を支払うことも可能で、受託者の負担が大きい場合などには報酬を設定することもあります。
信託財産
委託者が預けた財産は「信託財産」と呼ばれます。
家族信託の場合、信託財産に組み入れることができる財産の幅は広いです。不動産や未上場の株式なども信託財産にできます。
これに対して商事信託では金銭のみと指定されているケースが多いです。賃貸物件であれば信託財産にできることはありますが、不動産を何でも預かってくれる事業者はなかなかいません。
事業者が提供するサービス内容によって信託財産にできるものが異なりますので、詳細は各事業者に確認を取る必要があるでしょう。
根拠となる法律
家族信託は「信託法」を根拠法とします。信託法に規定されている内容に従い、契約を締結するということです。
これに対し商事信託では「信託業法」を根拠法とします。
とはいえ、信託業法が適用される事業者であっても信託法は適用されます。
信託法は信託についての基本的ルールを定めた一般的規律であり、すべての受託者に効力が及ぶからです。
その上で、信託業法で定められている規定は信託法に優先して適用されることになります。つまり特定の事業者に対しては信託法だけでは不十分であり、ルールを補完するために信託業法が機能しているということです。
利用者にとってのメリット・デメリット
委託者や受益者など、商事信託の利用者にとっては、「長期的に安心して信託ができる」というメリットがあります。
しかしながら、依頼先の事業者によっては「信託できる財産が限定的」ということ、そして「コストが高い」というデメリットもあります。
家族信託では、「信託財産や運用方法などの自由度が高い」「報酬の支払いが必須でない」というメリットが得られます。
しかし「資産運用ができる受託者のなり手がいないといけない」「受託者に対する監督機能が弱い」というデメリットがあります。
商事信託の方が適しているケース
以上の違いを踏まえた上で、商事信託の方が適しているケースを紹介していきます。
1つは「家族や親族の中に受託者として適格な人がいない」というケースです。
大きな財産を預けることに関して信頼できる人物が思い当たらない、人として信頼しているが資産運用のノウハウを持っていない、といった場合に家族信託を無理に始めるのは危険です。
商事信託でプロに任せた方が良いでしょう。
また、「家族を受託者とすることでトラブルが起こりそう」というケースも挙げられます。
親族間の仲が悪いと、受託者がきちんと資産運用をしていても、財産の一部を取ってはいないか、などとあらぬ疑いをかけられる可能性があります。相続時にトラブルに発展することもありますので、こういったケースでも商事信託に任せた方が良いでしょう。
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